選挙解体新書

地方選挙の解説、最新の選挙科学の研究、そして選挙の独自分析を紹介してます。

公明党がネガティブ・キャンペーンをする理由

 

ネガティブ・キャンペーン(ネガキャン)とは自分の党の政策の良い点ではなく、相手の党の政策の攻撃する選挙戦術です。歴史上最も成功したネガキャンは、「汚いヒナギク」のCMでしょうか。1964年の米大統領選挙で、タカ派で知られる共和党ゴールドウォーター候補陣営に対して行われた民主党ジョンソン陣営によるCMです。ゴールドウォーター候補と核戦争の恐怖のイメージを結び付け、ジョンソン陣営の勝利に大きく貢献したと言われています。

 

たしかに、今見ても背筋が冷たくなるような強いインパクトを与えます。

 

公明党とネガティブ・キャンペーン

さて現代の公明党です。

 

選挙公報や街頭演説など“地上戦”ではあまり攻撃的なところをみせない公明党ですが、ウェブ上を舞台にした“空中戦”では他党に対して非常に攻撃的です。

 

 

 

 

www.komei.or.jp

 

 

なぜ公明党の選挙戦術は、こんなにも攻撃的なのでしょうか。

 

 ネガキャンは、改革派に対して有効

 ジュネーブ大学の研究者が2012年に発表した論文によると、ネガティブ・キャンペーンには効果的になる状況と逆効果になってしまう状況があるといいます。研究者らはスイスの過去の選挙データとその時の選挙広告を用いた実験を行いました。

 

 すると、大きく分けて現状維持派と改革派が選挙で戦うときに、ネガキャンは逆の効果を持つことがわかりました。現状維持派に対するネガキャンは効果的がないのに対して、改革派に対するネガキャンは有効だったのです。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3f/Negative_campaigning_%40_Paris_%2833786801260%29.jpg

(画像 フランス大統領選挙でのマクロン候補に対するネガティブキャンペーン) 

 

 この違いがなぜ生まれるかはわかっていませんが、この論文の著者は“感情”が原因にあるかもしれないと述べています。現状維持派に対しての反論(今のままではダメ!)は一般的に悪いイメージ(恐怖・不安など)を感じるのに対して、現状を変えようとする改革派に対する反論(現状を変えてはいけない!)は一般的に良いイメージ(安定など)を持ちやすいというわけです

 

 公明党は政権与党です。かつその支持母体は創価学会であり、盤石な選挙地盤を持っています。全体として、改革を叫ぶ必要性は全くありません。対する選挙で戦う相手は、共産党・立憲民主党・希望の党と改革を声高に叫ぶ党ばかりです。

 

 つまり公明党の相手は、ネガキャンが効果的な改革派の政党です。この状況でネガティブ・キャンペーンをすることは、公明党支持者の感情をポジティブにし、公明党への支持に効果的だと言えるかもしれません。

 

公明党は評判が下がるのを気にしない?

 実は、ネガティブ・キャンペーンはほとんど効果がないことが、さまざまな研究で示されています。なぜなら、A党がB党を攻撃することで、B党の評価が下がりB党へ投票する人が減るかもしれませが、同じように“B党を攻撃する”A党の評価も下がるためA党に投票する人が減る危険性があるからです。つまり、ネガキャンは諸刃の刃なのです。

 

 この点、公明党は違います。

 

 公明党は盤石な選挙基盤を持っているため、他党の政策を攻撃したくらいでは支持者が公明党への評価を下げることはないでしょう。この点も、公明党が他党へのネガキャンに躊躇わない理由だと思われます。

 

公明党ではネガキャンが有効かも

 

まとめると、①改革派を相手にする政党ではネガティブ・キャンペーンが有効なこと、②支持基盤が固定されているのでネガティブ・キャンペーンによる自党の評判の低下を気にしなくてよいこと、の2点が公明党でネガティブ・キャンペーンが盛んになる理由だと思われます。

 

 

 

参考資料 

Nai, A. (2013). What really matters is which camp goes dirty: Differential effects of negative campaigning on turnout during Swiss federal ballots. European Journal of Political Research52(1), 44-70.