うるさい選挙カーの利点と欠点。より”良い”選挙活動に向けて
選挙に特段の興味ない多くの市民にとって、選挙期間が始まったことを知るきっかけは選挙カーからの連呼であるといっても言い過ぎではない。
しかしこの選挙カーによる連呼、評判はすこぶる悪い。
ネットで選挙カーと検索すれば、、
検索候補には「うるさい」「苦情」「騒音」「法律」など、ネガティブな検索ワードが並ぶ。
また、選挙カーによる「名前連呼候補」に対してどう思いますか?というネットアンケートでは、64.9%が応援したくないと答えており、応援したいと答えた5.1%とは対照的だ。少なくとも、ネットを使う年齢層には、選挙カーによる連呼はマイナスの効果が大きく上回っているようだ。
では、なぜ候補者は、選挙カーでの連呼行為を止めないのか。
この記事では、選挙戦略上の選挙カーでの連呼行為を肯定的な面と否定的な面からとらえた研究を紹介し、「より有効な選挙手法」を提案したいと思う。
選挙カーの肯定的な面
2017年、関西学院大学の研究者らは選挙カーによる連呼が選挙活動としてプラスに働いていることを示唆する研究を発表した。研究者らは、赤穂市市長選挙の候補者の一人に注目し、選挙カーでの移動経路や連呼行為などを、GPSを使って詳細に記録した。
そして、選挙カーで選挙活動を頻繁にしていた地域に住む有権者は、その候補者に投票しやすいという関係性を発見した。ただ、注意しなければならないのは、選挙活動の多い地域の有権者は、候補者への好感度を増加させているわけではなかった。
つまり、選挙カーでの連呼行為は、有権者の好感度を増加させるわけではないが、投票に導きやすかったというわけだ。
選挙カーの否定的な面
一方、福島大学の研究者らは、選挙カーの否定的な面を報告している。研究者らは、育児中の母親が選挙時の選挙カーによる名前連呼をどのように捉えているかを調査した。
その結果、育児中の母親は、選挙カーによる名前の連呼を投票の参考にしておらず、騒音と捉えていることが分かった。また、選挙カーによる名前連呼は、育児に対して多様な影響をもたらしていることも報告している。このことから、研究者らは、選挙カーによる名前連呼は、少なくとも育児時中の母親にとって無くなることが望ましいと結論付けている。
同じく福島大学の研究者らは、選挙カーによる名前連呼の選挙活動上の有効性を、立候補者自身がどのように感じているかを調査している。その結果、立候補者自身ですら、効果を感じている人とそうでない人がいること、また、他の有効な手段があれば街宣車放送でなくても良いと考えていることもわかった。そして、立候補者の多くは街宣車放送を行うことで騒音問題を引き起こすという認識をもっていることも報告している
選挙カーによる名前連呼は効果があるかわからないし、騒音になっていることも認識している。ただ、選挙活動中にできる活動は限られているし、また選挙カーに関わる費用は、国や自治体が負担してくれる。何より少しでも効果があるかもしれない選挙活動を止めるのはリスクが高い、というのが候補者の認識だろうか。
選挙カーを使わないのはリスクが高い。
このような選挙カーの騒音に対する市民への反感から、選挙カーでの選挙活動を行わない候補者も増えている。
ただし、注意しなければならないのは、不満の多くは、選挙カーを使った選挙活動そのものにあるのではなく、選挙カーからの騒音である点だ。選挙カーが走っていることや、選挙カーに税金が使われること自体に対して大きな反対意見は見当たらない。
つまり、多くの有権者は「選挙カーが走るのはいいけど、騒音はやめてほしい」という意見を持っているのだろう。
選挙カーを使わないということは、騒音は生まない候補者としてアピールできるメリットがあるが、選挙カーの移動によって多くの有権者が候補者(の名前)を目にする機会を減らしてしまうというリスクがある。
ひとつ参考になるケースがある。選挙カーを使わない宣言をした区議会議員選挙のとある立候補者は、ネット上で非常に多くの賛同者を得た。この候補者は、選挙カーを使わない代わりに、自転車で移動しながら選挙活動をしていた。
しかし、実際の選挙結果は奮わなかった。ネット上での大きな賛同とは裏腹に、当選ラインの半分にも届かず落選してしまったのだ。もちろん選挙カーを使わなかったことだけが原因ではないだろう。しかしこの事例は、周りが選挙カーを使って選挙活動をしている中で、「選挙カーを使わないことのリスク」を端的に表しているといえるだろう。
選挙カーは使うべき、ただし名前連呼はなしで
そこで、私が提案する選挙カーの最適な利用方法は、
1. 選挙カーは利用する。ただしマイクでの連呼はしない。
2. 声かけは叫ばず地声で、相手の市民を見ながら
3. 選挙カーには、「マイクによる騒音を出しません」と両サイドと後方に大きく明記する。
である。
この手法に従えば、選挙カーの騒音に反感を持つ支持者からの票を得られるメリットがありつつ、選挙カーの移動によって多くの有権者に候補者の名前やマイクを使わないことが周知できるだろう。
さらに、この手法を用いると、他の候補者の選挙カーが熱心に名前を連呼すればするほど、騒音に反感を持つ市民が増え、自分の選挙活動が有利になるというメリットもある。
無党派層や若い層にターゲットを絞った選挙を展開しようと考えている候補者は、この手法が特に有効だろう。
私は、この手法で選挙活動を行った候補者を知っている。彼ら/彼女は、選挙活動中、信号待ちで選挙カーの横に並んだ市民から、応援の言葉を多くもらったという。結果的に、その候補者らは無所属・新人であったにもかかわらず高い得票を得て当選した。
この事例だけを持って一般化はできない。
しかし、この手法は、立候補者にとっても有効であると同時に、市民にとってもよい選挙期間となる、win-winの関係をもたらす選挙手法だと信じている。
参考資料
HOME|2017年の報道発表|選挙運動が有権者の心理に及ぼす効果 候補者への好感度は高めないが投票には向かわせる
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