選挙解体新書

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市民はイケボ政治家に弱い?選挙と声質の関係

国民は顔で政治家を選ぶ

 

 候補者の「見た目」が有権者の投票行動に大きな影響を及ぼしていることが世界中の研究で示されている。イケメンは選挙でも得をするのである。

 

候補者の「見た目」と、政治家として重要な能力や政治信条は、ほとんど関係がないにもかかわらず、有権者は「見た目」という分かりやすい情報で判断してしまう。

 

 このような非合理的な行動は、複雑な情報(候補者の経歴・実績・政策等)をもとに意思決定をする必要があるときに、単純な情報(見た目)だけで判断してしまうという、人間の本能的な性質によって引き起こされていると考えられている。 

 

 

 

国民は「いい声」に投票する?

 実は、候補者の見た目以外にも、有権者が投票に利用していると考えられる単純な情報がある。

 

 それは候補者の「声」である。

 

 もちろん候補者の声は、有権者に対して、候補者の名前や政策、実績等を伝えると言う意味で直接的に投票を呼び起こすかもしれない。しかし、ここで意味している「声」はそういう意味ではない。もっと単純な情報としての「声」である。

 

 具体的には、「声の高さ」である。

 

 日本の選挙において、選挙カーや駅前での街宣活動などで、候補者の声が有権者と接する機会は多い。果たして候補者の「声の高さ」は、有権者の投票にどのように関わっているのだろうか。

 

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低い声の政治家は投票されやすい

 

 これまでの研究から、声の高さそのものが、聞き手に対して様々な情報をもたらすことがわかっている。例えば、男性の低い声は、より魅力的で、身体的に強く、支配的であると聞き手に感じられることが分かっている。一方で、女性では、より高い声がより魅力的だと判断される傾向にある。

 

 マイアミ大学とデューク大学の研究者は、2012年に発表した論文で、声の高さは政治家を選ぶ際でも重要な役割を果たしていることを示した。

 

 この実験では、被験者はあらかじめ録音された、高い声で話す候補者と低い声で話す候補者の音声(『11月の選挙では私に投票してください“I URGE YOU TO VOTE FOR ME THIS NOVEMBER”』)を聞き、どちらにより投票したいかという選択を行った。

 

 この結果、候補者の声の高さが、投票のされやすさに影響することがわかった。

 

 男性の候補者の場合、聞き手が男性であっても女性であっても、低い声の候補者がより有能で信頼のおける人物だと判断され、投票されやすかった。これは、選挙以外を想定したこれまでの実験と同じである。一方で、女性の候補者の声に関しては、予想と反する結果が得られた。選挙以外を想定したこれまでの多くの実験では、高い声の女性がより魅力的だと判断されていた。しかしながら、選挙を想定したこの実験では、男性候補者と同じように、女性候補者でも、より声の低い候補者が選ばれたのである。声の低い女性候補者は、より有能で、より強く、より信頼がおける候補者だと判断されたのだ。

 

 つまりこの研究は、候補者の声は、男性の声でも女性の声でも、低い声の方が「政治家として」ふさわしいと認識され、投票されやすいことを示唆している。

 

街頭演説で求められる声とは

 

 駅前で行われている街頭演説を思い出してほしい。

 

 その候補者は、高い声で絶叫していなかっただろうか。

 

 たしかに高い声の方が、遠くまで聞こえやすいかもしれない。しかし、その声の高い演説ではいくら演説内容が良くとも、有能だと判断されにくく投票にはつながらないだろう。

 むしろ足早に去っていく多くの市民は、演説の内容は聞いておらず、声の質だけを聞いているようなものだ。そのような市民にとっては、演説の中身より、声の高さだけが頭に残るはずだ。

 

 この研究を信じるならば、男性であれ女性であれ、街頭演説では、落ち着いた低い声で喋るのが正解なのだ。

 

 

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