「市議選は選挙ポスターが9割」な理由
2005年、選挙に関わる全ての人を驚愕させる研究成果が、世界で最も影響力のある学術誌Science誌に発表された。
この研究では、二人の政治家の顔写真を提示し、どちらの顔が「より有能そうに見えるか」と質問する単純な実験を行った。この二人は実際に選挙を争った二人だ。
このシンプルな実験は驚くべきことを予測していた。なんと、政治家の見た目だけで判断した結果が、実際の選挙結果の70%近くを言い当てていたのである。
さらに驚くべきことに、被験者はたった0.1秒だけしか顔を見てない場合でも同じ結果になったのだ。たった0.1秒の直感による選択と、アメリカ国民の実際の投票結果が似ていたということだ。
つまり、この研究は、多くの有権者は実績や政策を元に慎重に候補者を評価して投票しているのではなく、顔の見た目という極めて少ない情報によって投票している可能性をはじめて明らかにしたのだ。
どういうとき、有権者は「顔」で選ぶのか?
直感で政治家を選んでいるのは、アメリカ国民だけでない。
この衝撃的な研究が発表されたのち、世界中の国民を対象に研究が行われ、世界中の国民が、少なからず政治家を見た目で選んでいることが明らかにされたのだ。
もちろん日本も例外ではない。
しかし、当然ながら、すべての国民が政治家を顔で選んでいるわけではない。見た目の有能さとは別に、政治家の実績や政治理念で判断している国民もいる。
どんな有権者が、政治家の顔を特に重要視するのかがわかれば、効果的な選挙活動につながるだろう。イケメン好きの有権者に投票してもらうためには、「顔」を良くするしか方法はないのだ。
では、誰が、見た目で投票しているのだろうか?
知識のない有権者は見た目を重視する
同じマサチューセッツ工科大学の研究者らは、米国の上院議員選挙と州知事選挙に投票した36500人の有権者のデータを解析し、どういう特徴を持った有権者が候補者の見た目を重視するのかを調べた。
この解析の結果、選挙にあまり興味がなく、選挙や政治に関する知識の少ない有権者は、有能そうにみえる候補者に投票する傾向が高い、つまり候補者の「見た目」を重要視することがわかった。
テレビ好きも見た目を重視する
Reference:File:TV highquality.jpg - Wikimedia Commons
さらに選挙に関する知識をあまり持っていない有権者の中でも、特にテレビをよく視聴する有権者は、見た目を重要視することもわかった。一方で、選挙や政治の知識の多い有権者は、テレビの視聴時間に関係なく、候補者の見た目を重要視しないようだ。
つまり、政治にあまり関心がなく、候補者とテレビのみで接することが多い有権者層は、候補者の経歴や実績ではなく「見た目」を重視することがうかがえる。
地方選挙は見た目が勝負
この研究が示すメッセージはシンプルだ。
候補者の情報が少ない場合、有権者は「見た目」で投票する。
日本の地方議会議員選挙においては、選挙期間が1週間以内と短く、候補者に関して豊富な情報をもっている有権者は極めて少ない。候補者のことをよく知っている有権者がいるとしても、それはすでに誰かを支持している可能性が高い。
地方議会選挙における無党派層の有権者は、選挙に関する情報をほとんど持っていない有権者とみなすことができる。そのため、地方議会選挙の無党派層から票を得るためには、候補者の見た目が非常に重要であるはずだ。
投票先を決めていない無党派層が参考にできる情報は、選挙公報、選挙ポスター、リーフレット程度である。すべて顔写真が含まれる。また、投票所にいくまでだれに投票するか決めてない無党派層が最後に出会う情報は、選挙ポスターだ。
つまり、「選挙ポスターの顔」が全てを決めるのだ。
どういう顔を選挙ポスターに使うべきか。
では、どういう見た目がいいか。
科学者たちは明確な答えをだしている。
それは、「有能そうに見える顔」だ。
選挙ポスターに使う顔は、なるべく多くの人に「どの写真がもっとも有能そうに見えるか」と質問して選んでもらい、ベストな顔写真を選ぶのがよいだろう。これ以上の方法はない。
間違っても、写真館のオーナーのおススメや、有力な後援者の一存で決めてはならない。最悪なのは、若く見える写真を自分で選ぶことだ。
(若く見えることは、投票されにくいことがわかっている)
地方選挙は、選挙ポスターの顔写真で勝負が決まると言っても過言ではない。
主要参考資料
- Elected in 100 milliseconds: Appearance-Based Trait Inferences and Voting.