選挙解体新書

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戦争の時、国民はちょいポチャで強面の政治家を好む

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/58/Winston_Churchill_As_Prime_Minister_1940-1945_MH26392.jpg/1280px-Winston_Churchill_As_Prime_Minister_1940-1945_MH26392.jpg

Reference: File:Winston Churchill As Prime Minister 1940-1945 MH26392.jpg - Wikimedia Commons

 

国民は選挙で政治家を選ぶときに、「顔」や「身長」などの見た目を、無意識のうちに重視してしまう。

 

「有能そうに見える顔」をした「高身長」の候補者を、高く評価してしまうのだ。

election.hateblo.jp

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戦時には、強面の政治家を好む

 

  社会的状況が変化したときには、有権者は好む見た目を柔軟に変化させることも知られている。特に、戦争のときには。

 

 英国スターリング大学の研究者らは、様々な程度に加工した候補者の顔写真を用意し被験者に見せた。単純に「どちらの候補者に投票しますか」とだけ質問した場合には、特定の顔が好まれやすい傾向はなかった。

 

 しかしながら、この結果は、被験者が戦争を想定するたった数ワードを聞くだけで大きく変化した。「“平和な時には、”どちらの候補者に投票しますか」と質問された被験者は女性的に加工された顔に投票しやすかった一方で、「“戦争の時には、”どちらの候補者に投票しますか」と質問された被験者は支配的・男性的に加工された顔に投票しやすかったのだ。

 

つまり、戦争下では、強面の政治家を選びやすくなる

ことを示唆している。  


 

 この無意識の選択は、長い進化の過程で獲得してきた性質で、人間が本来持っているものだと考えられている。周りの村と戦いが起こりそうなときは強面のリーダーが必要だった、というわけだ。

 

 国民は戦時には支配的で男性的な「顔」の政治家を好む。では、「身体」に関してはどうだろうか。戦時には、肉体的に強い身体の政治家を好むだろうか。


 

 

戦時には、肉体的に強い政治家を好む?

 

 この観点から、テキサス工科大学の研究者は、戦争を想起させることによって有権者が好む政治家の「体型」を変化させるかどうかを調べた。我々人間が、闘争を想起したときに強そうな顔のリーダーを好む性質を持っているなら、当然同じ状況では強そうな体型のリーダーを好むはずだ。

 

 結果は予想通りだった。760人を対象にした調査によって、戦争を想起させた条件では、大柄な身体を持つ人物モデルを、リーダーとして高く評価することがわかった。

 

 具体的には、平和を想定した時には187.7cm・体重81.7kgの体型がリーダーとして最もふさわしいと判断されたのに対し、戦争を想定した時には、身長が0.7cm高く、体重3.7kg重い体型の人物モデルが好まれたのだ。

 

 これはBMIで言うと、25.1であり、ちょうど肥満カテゴリーに入る値だ。

 

 つまり、戦争時には「ちょいポチャ」の候補が好まれやすい可能性があるということだ。

 

有権者が好む「イメージ」も同じように変わる

 

 研究者はさらに、戦時と平時でリーダーに求める身体的なイメージも調べた。

 

 その結果、平和な時に比べて戦時の時には、より身体的に威圧感があり、より支配的なイメージの人がリーダーとしてふさわしいと判断される傾向があった。

 

 やはり、戦時の時には、身体的にも精神的にも“強そうな”政治家が無意識に好まれるようだ。

 

チャーチルは理想的?

  

 冒頭に挙げた写真は、イギリスの政治家、ウィンストン・チャーチルだ。チャーチルは、1940年よりイギリスの首相を務め、イギリスの対ドイツ戦争を勝利に導いた重要な政治家だ。まさに戦争下で活躍した「強面でちょいポチャな政治家」と言えよう。(チャーチルは選挙によって首相になったわけではないが)

 

 ただし、ここで紹介した研究は、実際の戦争の時の国民の志向を調べたわけではなく、あくまで戦争を意識させた時の被験者の意識の変化を調べたものである。その点、注意しなければならない。

 

 

主要参考資料

Murray. Evolutionary preference for physical formidability in leaders.