忖度の証明?官邸を訪れた企業は便益を受けている、という研究結果
政治家は経済活動に対して強い影響力を持っている。そのため、経済活動を営む企業にとって、政治家とのコネクションを維持することは非常に重要だ。
しかし、この事実を検証するのは非常に難しい。政治家は特定の企業と親密になっている事実をあまり明らかにしたがらないし、企業も特定の政治家と親密になっていることを隠したがる。そのため、企業と政治家との親密さは定量化できないのだ。
そのため、政治家とのコネが企業にとっての重要性は明らかであるように見えても、これまでは経験則や個別のケースとしてのみ知られていた。
「政治家とのコネ」の価値を定量化する
最近発表された論文では、政治家とのコネが、企業にとって実際にプラスになっていることがはじめて定量化された。研究者はどうやって「政治家との親密さ」を定量化したのだろうか。彼らは、常時公開されているホワイトハウスへの訪問者記録を使って、政治家と企業の驚きべき関係を明らかにしたのだ。
イリノイ大学の研究者は、2009年から2015年のオバマ政権時のホワイトハウスの訪問者の記録から、S&P1500(アメリカの代表的企業リスト)の企業役員と連邦政府が会合している記録を2286個見つけ出した。このデータを元に、政策決定者と会合することが、その企業にどれくらい利益になっているかを解析したのだ。
結果は驚くべきものだった。
会合した企業は株価が急激に上がる
解析の結果、ホワイトハウスと会合できた企業は、その後2か月で株価が異常なほど上昇することが分かったのだ。例えば、会合した企業は、会合していない企業に比べて、2か月で0.9%も株価(異常投資収益率の累積値)が上昇していたのだ。
ホワイトハウス訪問で0.9%の株価上昇。割合としては少ないように見えるが、時価総額が数千億円の企業にとっては、莫大な資産の増加になる。
会合することの具体的なメリット
なぜ政策決定者との会合が、企業の株価にプラスに働いたのだろうか。
研究者らは複数の理由を発見している。
一つめはシンプルだ。ホワイトハウスを訪問する企業は、政府との契約が取れやすいこのだ。研究者の単純な試算によると、ホワイトハウス訪問は、一年あたり3400万ドルの利益に相当するという。
二つめとして研究者があげているのは、規制の緩和だ。ホワイトハウスを訪れると、その企業に有利なように規制が変更されることが多いようだ。
三つめとしては、情報を素早く察知できるという点があげられる。ホワイトハウスへ訪問した企業は、訪問しなかった企業と比較して、政権の政策の不確実性が高まった時期に投資を削減する可能性が低くなった。これは、コネのある企業の方が、より良い情報を把握し、不確実性を素早く察知できることを示唆している。
誰がホワイトハウスを訪れることができるのか
ホワイトハウスでの会合は、企業にとって大きな利益をもたらすようだ。しかし、すべての企業が訪問できるわけではない。そこには政権とのコネが必要だ。どんな企業が政権とのコネをもてるのか。研究者は、ホワイトハウスへ訪問できる企業の特徴を調べ上げた。
すると、大統領選挙時にオバマ陣営に協力していた企業ほど、ホワイトハウスへ訪問しやすいことが明らかになった。さらに、ロビイングを行う企業や規模の大きな企業ほど、ホワイトハウスへの訪問が多いことも判明した。
つまり、コネを得るには企業は政策決定者に投資する必要があるが、いったんコネを手に入れればその企業は有利な契約、規制、情報が手に入りやすいというわけだ。
トランプ大統領は記録の公開をやめた
この研究は、オバマ政権がホワイトハウスへの訪問者記録を公開していたため可能だったといえる。しかし、トランプ大統領に政権が変わり、この公開を止めてしまった。
米大統領、公開引き継がず=ホワイトハウスの来訪者記録:時事ドットコム
もはや、誰がホワイトハウスへ訪問しているかがわからない状態だ。
トランプ政権になったことで、企業と政策決定者の関係がどのように変化するかは興味深いが、データが公開されていない現状では、それは闇の中である。
参考資料
米大統領、公開引き継がず=ホワイトハウスの来訪者記録:時事ドットコム
When CEOs Visit the White House, Their Companies Profit - POLITICO Magazine
All the President's Friends: Political Access and Firm Value