選挙解体新書

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わたしたちは「顔」で政治家を選んでいる。【海外研究】

有権者は、見た目で候補者を選んでいる。

 

 世界中の民主主義国家の国民にとって、「選挙」は国の行く末を決める最も大事な社会的なイベントである。政治家を志す候補者は、選挙に選ばれるために膨大な資金と膨大な労力を費やして、有権者に投票してもらえるよう苦心惨憺している。

 ところが、2005年、選挙に関わる全ての人を驚愕させる研究成果が、世界で最も影響力のある学術誌のひとつScience誌に発表された。その研究で鮮やかに描き出されたのは、政治家を、「顔」で選んでいる有権者の姿だ。

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Black Obama / PEXELS  

 

 この研究では、被験者に対して、2000年から2005年の米国の上・下院議員選挙の候補者二人の顔写真を提示した。そして、被験者に対して、どちらの顔が「より有能そうに見えるか」と質問する単純な実験を行った。

 

 実験の結果、どちらの顔が有能そうかという基準だけで判断した選択が、実際の選挙結果の70%近くを言い当てていたのである。さらに驚くべきことに、被験者はたった0.1秒だけしか顔を見てない場合でも同じ結果が得られた。たった0.1秒の直感による選択と、アメリカ国民の実際の投票結果が似ていたということだ。つまり、この研究は、多くの有権者は実績や政策を元に慎重に候補者を評価して投票しているのではなく、顔の見た目という極めて少ない情報によって投票している可能性を明らかにしたのだ。

 

世界中の実験で同じ傾向が得られた    

 

 この研究は、世界中の選挙に関心のある人々に大きな衝撃をもたらした。有権者は、候補者を政策や実績で評価して投票しているのではなく、「見た目」で投票する。これがもし本当なら、選挙活動を大きく変えてしまうだろう。候補者の政策や実績を伝える活動よりも、ポスターやテレビに写る見た目をよくすることが、当選するために重要になるかもしれない。このことから、2005年以降、世界中で、政治家の見た目と当選されやすさの関係が世界中で調査された。

 

 世界中の優秀な、しかし見た目には自信のない政治家にとっては非常に残念なことに、有権者は見た目の良い政治家に投票しやすいようだ。フランス、スイス、フィンランド、イギリス、オーストラリア、メキシコそして日本など、世界中のさまざまな地域の選挙で、有権者は「見た目」で候補者を選んでいる証拠が得られた。つまり、候補者の「見た目」が実際の選挙と一致するという事実は、国境や文化を越えたものであったのだ。さらに、自分の国の候補者ではなく、外国で行われた選挙の候補者の顔写真を見せて有能さを判断させた場合でも、実際の選挙結果と似た結果が得られている。

 

 つまり、われわれは政治家を見た目で選んでいるのだ。少なからず。

 

有権者の判断は、子供の判断と同じ 

投票
投票 / wajun

 

 そして、極めつけの研究は、スイスの5-13歳の子供に対して、フランスの候補者2名の顔写真を見せ、どちらがゲームの船長にふさわしいかということを選択してもらう実験である。もう想像がつくかもしれないが、スイスの子供たちが直感で選んだ候補者は、実際にフランスで当選した候補者をうまく予測できていた。

 

 これらの一連の研究は、有権者はきちんと候補者を評価して投票しているという想定とは異なり、ある一定数、もしくは多くの有権者は候補者の見た目に基づいた直感で投票するという傾向が、世界的に存在することを示している。つまり、自分の地域の意見を代表する政治家を選ぶという重要な選択であっても、人間は、「直感」という不正確な判断に影響されているようだ。

 

  投票される見た目を理解することが当選への近道

 

 政治家・選挙スタッフにとっては、これらの研究は2つのメッセージをもっているだろう。ひとつは、実直に実績や政策を伝えるだけでは選挙活動として不十分であり、当選されやすい見た目を意識することが大事であるというメッセージ。

 

 もうひとつは、投票されやすい見た目を理解し、それを自らの選挙活動に反映することで、当選しやすさが大きく上がる可能性があるというメッセージである。

 

 このブログでは、当選する政治家の特徴を、詳しく解説していく予定である。

 あなたの選挙活動が、実り大きなるものになりますように。

 

 

主要参考資料

Todorov, et al. Inferences of Competence from Faces Predict Election Outcomes

Olivola Todorov. Elected in 100 milliseconds: Appearance-Based Trait Inferences and Voting