選挙解体新書

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長谷川氏「女の知的水準低いと子供を多く産む」を検証する

 

  先日行われた衆院選に出馬した長谷川豊氏。その発言が話題になっています。

 

長谷川豊「結婚しない男は殺せ!女の知的水準低いと子供を多く産む、計算できないから」史上最悪の暴言 | KSL-Live!

 

 政治を志す人物としての表現の妥当性や倫理性は脇に置いておきまして、このエントリーでは「女の知的水準低いと子供を多く産む」という言説を検証した研究を紹介します。ただし、長谷川氏の言う知的水準が何を指しているのか不明ですので、ここでは「教育レベル」と「子供の数」の関係のみに焦点を当てます。

 

 件の動画における長谷川氏が認識しているように、先進国の女性では「教育レベル」と「子供の数」には負の相関があるのは確かな事実のようですつまり、教育レベルが低いと子供の数は多くなる傾向があります。

 

 ただし重要なのはその先にあります。

 

 女性が「希望する」子供の数は教育レベルに関係ないかもしくは正の相関があることがわかっています。つまり高い教育レベルの女性は、本来はより多くの子供を持ちたいのになんらかの理由で断念していることを示唆します長谷川氏が政治家を志すならば、この事実にこそより注目する必要があるのではないかと思います。

 

教育レベルと子供の数

 

 教育レベルと子供の数の関係は、経済学・進化生物学・社会学・教育学などひろい分野において重要な課題です。ですので、さまざまな国を対象に、教育レベルと子供の数の関係を統計的に分析する研究が行われてきました。

 

 そして、ほとんどの研究は一貫したパターンを示しています。教育のレベルが高い国民は子供の数が少ないというパターンです。このパターンは先進国でも顕著に見られます。

 

例えば、2012年にアメリカ合衆国保健福祉省が公開したレポートにはこうあります。「高い教育レベルの女性は実子を持つ確率が低くなる。例えば学士を持つ女性の53%が子供を持つのに対して、高卒以下の女性では88%に達する。」

 

 このレポートは、2005年から2010年に行われた全米家族調査に参加した18-44歳の10403人の男性と12279人の女性を対象にした大規模な調査に基づいています。

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 reference: https://pdfs.semanticscholar.org/2fd6/d39db08dd52931fbcc47c847669c865174de.pdf

 

 男性・女性共に、教育レベル低いほど子供の数が多いことが分かると思います。特に女性の方が教育レベルによる違いが大きいようです。例えば、高校を卒業していない女性は平均2.5人の実子を持っているのに対して、4年制大学以上を卒業している女性は1.1人しか子供がいません。

 

 

高学歴女性は子供を望んでいない?

 

 これらの結果から、教育レベルの高い女性は子供を望んでいないと解釈してしまうのは単純すぎます。別の種類の研究は、教育レベルの高い女性は“希望する”子供の数は多いことを示しているのです。

 

 ウィーンに本部を持つヴィトゲンシュタイン人口統計学および世界人的資本センター(Wittgenstein Centre for Demography and Global Human Capital)の研究者は、女性の教育レベルと希望する子供の数の関係を、ヨーロッパ全域の9452人の女性を対象に調査しました。

 

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Reference: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040260814000069

 

 

その結果、「現在の子供の数」は教育レベルが高い女性ほど少ないパターンが見られました。これはアメリカの調査と同じ傾向です。

 

 

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Reference: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040260814000069

 

 一方で、最終的に希望する子供の数(現在の子供+今後ほしい子供の数)を調査したところ、教育レベルによる違いはほとんどありませんでした。むしろ、教育レベルの高い女性の方が、希望する子供の数は若干高い傾向がみられました。(この統計解析では、他の変数として年齢や婚姻形態、就業の有無等も考慮しています)

  

国家間の比較

 

 先ほどの結果は個人レベルのデータでしたが、同じ傾向は国家間の比較でも見られます。

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各点が各国の平均値を示しており、横軸が教育レベルの高い女性が占める割合を、縦軸が最終的に希望する子供の数を表しています。Reference: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040260814000069

 

つまり、教育レベルの高い女性が多い国ほど、希望する子供の数は多いのです。

 

どちらの提案がより良いか

 

 

 これらの事実を認識したうえで、日本の喫緊の課題である少子化問題を改善するためどうしたらよいでしょうか。

 

 ひとつは長谷川氏の言うように「女性がクルクルパーにならないと子供産まない」つまり、女性の知的レベルや合理的思考を本能の下位におくことで、本能を喚起する(子供の数を増やす)というアプローチが、倫理的な妥当性や実現可能性などは無視して、ありえます。

 

 もうひとつは、女性の合理性を本能の下に置くことなく、教育レベルの高い女性でも合理的に多くの子供が持つことができる社会を整備するアプローチです。

 

 具体的にどちらのアプローチが現在の日本において妥当か議論するまでもないと思いますが、長谷川氏には、政治家を志す人間としてどちらの言説を表明するのが適切かを再考していただければ嬉しく思います。

 

 ちなみに、男性も教育レベルの高いほど子供の数が少なくなるようです。しかし、少子高齢化の原因として、女性の教育レベルの上昇が言及されることはあっても、男性のそれはほとんど目にしませんね。

 

 

参考資料

Testa, M. R. (2014). On the positive correlation between education and fertility intentions in Europe: Individual-and country-level evidence. Advances in life course research21, 28-42.

Martinez, G., Daniels, K., & Chandra, A. (2012). Fertility of men and women aged 15–44 years in the United States: National Survey of Family Growth. National health statistics reports, 1-28.