投票率を向上させる、たったひとつの冴えてないやりかた
政治家の本音はそうではないかもしれないが、民主主義国家においては、健全な政治を作るために、国民がきちんと選挙に投票し政治に参加することが求められている。
しかし残念ながら、我が国では、投票率が低下傾向にある。
そのため、行政は多大な資金を投じて投票率向上のための啓発事業を行っているが、その効果は今のところほとんど現れていないようだ。
そんななか、ハーバード大学の研究者らは、行政の啓発事業ではなく、各陣営が行う選挙キャンペーンが盛んであれば盛んであるほど、有権者の投票率が増加することを明らかにした。解析したデータは、ロムニー氏とオバマ氏が争った2012年の大統領選挙に費やされた選挙キャンペーンのデータだ。
選挙活動が盛んだと投票率はあがる?
アメリカの場合、州によって費やされる選挙キャンペーンが大きく異なる。なぜなら、確実に共和党が勝つ州(テキサス州やカンザス州)や民主党が勝つ州(カリフォルニア州やコネチカット州)では選挙キャンペーンがほとんど行われないのに対して、共和党と民主党が拮抗する激戦州(ネバダ州やオハイオ州)では両陣営による激しい選挙キャンペーンが展開されるからだ。
もちろん、激戦州では選挙キャンペーンが多いだけじゃなく、マスメディアによる報道も多い。そのため激戦区で投票率が上がったとしても、それが選挙キャンペーンの効果かなのか、報道の効果なのか、区別するのが難しかった。
この論文の研究者らは、州を越えて報道しているメディア圏に注目することで、この問題を克服した。つまり、異なる州だけれども同じニュースが流れている住民を比較対象にしたのだ。これにより、マスメディアの効果とは別の、激戦州の選挙キャンペーンそのもの効果が、その住民の投票率に与える影響を調べることができたのだ。
選挙キャンペーンは投票率をあげる!
分析の結果、選挙キャンペーンが最も行われている激戦州では、メディアの効果や他の効果を統計的にコントロールしたあとでも、平均して4%投票率が高くなっていた。そして、もっとも選挙キャンペーンが少ない州と選挙キャンペーンが多い州を比較すると、6-7%程度、選挙キャンペーンによって投票率が増加していると推測された。
さらに研究者らは、選挙キャンペーンの効果について、より細かいデータも分析している。
例えば、投票有資格人口が約180万人で両陣営が最も選挙キャンペーンに力を入れるネバダ州単独で、ロムニー陣営は880万回の電話勧誘を行い、120万通の手紙を送り、80万戸の戸別訪問を行っている。つまり有権者一人当たり、5回の電話と、0.7通の手紙と、0.5回の戸別訪問を受けていることになる。これは有権者1人当たり3.4ドルの選挙資金を費やしていることになる。ちなみにオバマ陣営も同じ程度の選挙キャンペーンを行っているようだ。
投票率を1%あげるために必要なお金
これらのデータから分析を行うと、有権者一人に対して7-10回の電話勧誘を行い、1-2通の手紙を送り、1-2回の戸別訪問を行うことで、投票率は7-8%増加するという。お金に換算すると、有権者1人当たり1ドルの選挙資金を追加することで(州全体では180万ドル)、全体の投票率は1.1%あがる計算になる。
そして、全部をざっくり計算すると、1票あたり87ドルの選挙活動費が費やされているということになる。とんでもない大金だ。アメリカの大統領選挙が、寄付金集めの戦いと言われているのにも納得ができる。
当然のように思われるかもしれないが、この研究によって、両陣営が資金を投じて選挙活動をすると投票率があがるということが定量的に示されたのだ。
参考資料
Enos, R. D., & Fowler, A. (2016). Aggregate effects of large-scale campaigns on voter turnout. Political Science Research and Methods, 1-19.