選挙解体新書

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期日前投票は、現職市長に有利に働くかもしれない

 

横浜市長選挙は現職の林文子氏が当選しました。

www3.nhk.or.jp

 

投票率は37.21%で、前回2013年よりも8.16%上昇しています。投票率が増加した要因のひとつが、期日前投票の拡充と言われています。期日前投票の周知とともに、区役所や区民センターなど多くの公共施設が、期日前投票所として開放されています。 

 

投票率の向上は、健全な民主主義の発展のため重要なのですが、ひとつ気にかかる点があります。それは、投票場所が、有権者の投票行動を変えてしまう可能性がある点です。

 

海外で行われたいくつかの研究によって、投票する場所によって、有権者が無意識に投票行動を変化させることが示されています。

 

期日前投票は、基本的にその自治体の公共施設で行われます。公共施設という場所は、有権者の投票行動にどのような影響を与えるのでしょうか。

 

 

投票場所が学校だと教育税に賛成しやすくなる

 

 アメリカ、ペンシルベニア州立大学の研究者らは、実際に2000年にアリゾナ州で行われた住民投票に注目しました。この住民投票の争点は、教育費です。教育費を拡充するために、州の消費税を5%から5.6%に増加させる案の可否を問う住民投票でした。そして、研究者らは、この住民投票が行われた場所が「学校」であった場合には、無意識に教育の効果への共感が湧き、住民投票に賛成しやすくなるのではないかと予測しました。

 

 結果はまさにその通り。学校が投票所でなかった人の賛成率は53.99%だったのに対して、学校で投票した人は56.02%と若干ですが有意に増加していました。この投票所の効果は、選挙区の社会・経済学的など他の要因を統計的にコントロールしても、なお影響していました。

 

 さらに、研究者らは別の実験も行って、学校が投票所だったときの効果を検証しています。それは以下のような実験です。まず、被験者に様々な種類の写真を見せます。その中には、ロッカーや教室な学校を連想させるような写真と、オフィスビルなど学校とは関係ない写真が混ざっています。そして、被験者には別の実験をしていると思わせつつ、教育費の拡充のために税金をあげるか否かの投票をしてもらいます。

 

 この実験の結果も、さきほどの実際の選挙と同じ傾向を示していました。つまり、学校に関連した写真を見せられた被験者は、教育費を増やすための税金に賛成しやすかったのです。

 

 つまりこれらの研究は、投票が行われる場所そのものが、その場所から連想されるものへの賛成票につながりやすい可能性を示しているのです。

 

 

市役所での投票は現職有利になる?

 

さてひるがえって、日本の期日前投票の場所を考えてみましょう。

 

 期日前投票所は、市役所、区役所や市民センターなどの行政の施設で行われることがほとんどです。これは、行政の施設から連想される「行政の長」すなわち「現在の首長」への賛成票につながりやすい可能性があります。

 

 一方、通常の投票所は小中学校や体育館など教育施設ですので、現職候補への連想はそこまで強いものではないだろうと思われます。

  

 今後、期日前投票の役割はますます増していくことと思われます。投票率を向上させることは非常に重要ですが、それと同時に、投票所によって有権者の投票行動が無意識に変化している可能性をきちんと検証し、適切に期日前の投票所を選択することが大事かと思います。

 

参考資料

Berger, Jonah, Marc Meredith, and S. Christian Wheeler. "Contextual priming: Where people vote affects how they vote." Proceedings of the National Academy of Sciences 105.26 (2008): 8846-8849.