選挙解体新書

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都議選の選挙予想、マスコミより「2ちゃんねる」の方が正確だった

 

 大きな選挙が近づくとニュースを賑わすのが選挙結果の予想だ。様々なマスメディアが専門家を取材し、各党の獲得議席数や主要選挙区の当落を予想している。

 

 しかし、この予想がどれくらい当たっているのかご存じだろうか。選挙予想は派手に紙面を飾るものの、ひとたび選挙が終わってしまうと、その選挙予想は忘れ去られてしまい、予想の正確性を評価する試みはほとんどない。

 

 これはメディアとして健全な状態ではないだろう。なぜなら、影響力のあるメディアに発表される選挙予想は、ときとして有権者の投票行動を変えてしまう【参考:バンドワゴン効果 - Wikipedia】。つまり、メディアは選挙結果を左右できる影響力を潜在的に持っているのだ。そのため、メディアに発表される選挙予想は、なるべく客観的な方法を使い、正確性を高める努力をすべきだ。そして、そのための最初の一歩は事後評価、つまり発表された選挙予想の答え合わせだ。

 

 そこで本エントリーでは、先日行われた東京都議会議員選挙に注目し、マスメディアが発表した「各党の獲得議席数予測」の答え合わせをしてみようと思う。メディアの予想はどれくらいあっていたのか、そして最も的確な予想をしたのはどのメディアだったのだろうか。

 

データセットの取得

 2017年1/1より、ひと月ごとに「都議選 議席 予想」で検索。検索結果の上位50件から、都議選の議席数を予想している記事を集めた。その結果、全部で29の個別の選挙予想を収集できた。そのうちマスメディアに発表されたものが17つ、個人ブログが4つ、2ちゃんねるの書き込みが7つ、ヤフー知恵袋が1つだった。発表されたマスメディアは週刊誌のウェブ版がほとんどで、大手新聞各社は議席数の予想は行っていなかった。メディア上で議席数を予想していた専門家は、選挙プランナーや政治・選挙ジャーナリスト、政治系NPO法人理事などだった。

 

 議席予測の正しさは、各政党の議席予想ごとに実際の選挙結果とのずれを総計し、評価した。例えば、自民20都民ファーストの会40と予想していた場合、実際の選挙結果(自民23都民ファーストの会55)とのずれを計算すると18となる。この計算をすべての政党の議席予想分足し、「合計はずれ値」を算出した。この値が低い方が、正しい予測ということになる。

 

マスコミの予想 vs. 素人の予想

  

 早速だが、マスコミ(専門家)の予想がどれくらい当たっていたのか見てみよう。比較対象として、おそらく素人が予想したであろう2ちゃんねるとヤフー知恵袋の書き込みと比べてみる。

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 この図は、マスコミと2ちゃんねるの書き込みの予想がどれくらいはずれていたのかを比較したものだ。 なんと、マスコミが発表した専門家の予想の方が、2ちゃんねるの予想よりも「合計はずれ値」が高いことがわかった。つまり、2ちゃんねるに書き込んだ素人の方が、実際の選挙結果をうまく予想できていたことになる。

 

 メディアで予想を発表していた専門家の肩書は政治ジャーナリストや選挙プランナーとなっており、選挙のスペシャリストといっても間違いないだろう。そのような専門家でさえ、素人並みかそれ以下の予想しかできていないことが浮き彫りになった。

選挙が近づくと、予想は正確になる?

 一般的に、近い将来を予測する方が簡単である。なので、選挙当日に近い日の予想の方が、正確な予想になると思われる。そこで、予想が発表された日に注目し、「合計外れ値」をプロットしてみた。

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 これも予想に反した結果となった。選挙当日に近づけば近づくほど、マスコミの予想は、実際の選挙結果からはずれた予想をしてしまっていた。むしろ、選挙の数日前に発表された予想よりも、数か月前に行った予想の方が正確だった。

 

 一方、2ちゃんねるの書き込みは、選挙数日前に集中しており、比較的正確な予想をしていることがわかる(下の図、緑の丸)。

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 なぜ専門家・マスコミは予想を外したのか?

 

 なぜ、専門家は予想を大きく外したのだろうか。

 

 まず第一に、マスコミ・専門家は与党自民党の議席数を過大に予想していた。特に選挙直前の予想では、どの専門家も、自民党が実際より5~25議席も多く議席を獲得すると予想してしまっている。

 

 なぜ、このように自民党の議席数を過大評価した予想ばかりが報道されたのだろうか。具体的な理由はわからないが、与党がそこまで大負けすることはない、という一種の正常性バイアスが働いてしまったのかもしれない。また、自民党贔屓と言われる一部の専門家が自民党の議席数を大きく過大評価している点も注目される。

 

 逆に、どの予想でも、過小に予想されていた政党がある。共産党だ。今回の都議選でマスコミに発表されたすべての選挙予想で4~9議席、実際の選挙結果よりも少なく予想されていた。今回の都議選でもっとも驚くべき結果は、誰もが予想していなかった共産党の躍進だといえるかもしれない。

 正確な予想をした専門家もいる

 

 全体としてみると、マスコミ(専門家)の選挙予想は、素人よりも正しい予想だとは言えなかった。ただし、中には正確な予想もあった。例えば、2月23日にZak Zak 夕刊フジに発表された、選挙プランナー松田馨氏の予想は「合計はずれ値」が10と、すべての予想の中最少であり、最も的確な予想であった。特に、このときの予想では自民党の議席数を23と予想しており、これは実際の選挙結果を完璧に予測している(ただし、同氏が7/1に発表した予想では「合計外れ値」が24となっており、より不正確な予想になってしまっている)。

 3月28日にNippon.comに発表された小池氏側の調査に基づく議席予想も「合計外れ値」が10で最も的確な予想だった。ただ、この予想は前述の松田馨氏の予想と完全に一致するため、松田氏は“小池氏側”として活躍していたのだろう。

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経験だよりの選挙予想の限界

  

 マスコミの都議選の議席予想は、基本的に「ローテク」だったようだ。独自に大規模世論調査を行った選挙ドットコムを除いては、すべての予想が主に専門家の経験に基づいている。つまり、各選挙区の当落を経験から予想し、その当選者の議席数を上積みしてトータルの議席数を予想している。

 

 今回の分析の結果、従来の経験と勘に大きく頼る予想は、少なくとも2017年の都議選では、全く機能していないことが明らかになった。そのため、このような専門家の経験頼みで客観性の乏しく、そして予測性の低い選挙予想は、今後改善していく必要があるだろう。