選挙解体新書

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リベラルと保守で、好む政治家の「顔」が違う

 

これまで、世界中の有権者が、政治家の見た目、特に有能そうに見えるかどうかという単純な基準で政治家を選んでいるという世界中の研究を紹介してきた。

election.hateblo.jp

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有権者は、政治家の質を「顔」で判断してしまう性質があり、「有能そうに見える」顔の政治家は、実際に選挙で勝ちやすいのだ。

 

有権者の価値観は多様である

 

 たしかに多くの国民は、有能そうに見える顔の候補者を政治家としてふさわしいと直感で思ってしまうのかもしれない。

 

しかし、国民も一様ではない。

 

 周りを見回してみればわかるように、それぞれの有権者は多様な価値観を持っている。その中には、有能そうな顔の政治家を好む有権者もいるだろうし、優しそうな顔、もしくは力強い顔の政治家を好む有権者もいるだろう。

 

では、どういう有権者が、どういう顔の候補者を好むのだろうか?

  

リベラルと保守で、好まれる顔が違う。

 

 Aarhus Universityの研究者らは、有権者の政治的な価値観(リベラルな思想と保守的な思想) と投票されやすい顔の関係を綿密な実験により調査した。顔の特徴として、特にdominance(支配的、優勢さを感じさせる特徴、男性的)に注目している。調査の結果、有権者かリベラルか保守化によって、政治家として好む顔には明確な違いがあった。

 

保守的な人は男性的・支配的な顔の政治家を好み、

リベラルな人は女性的・非支配的な顔の政治家を好んだ。

 

 

 上に引用した写真のうち、真ん中の段の上下の顔が、顔の支配性の違いを非常に極端にしたものだ。上の顔が支配的な顔で、下の顔が非支配的な顔だ。

 

 支配的な特徴の強い候補者の顔は、有権者が保守的な価値観を持っている場合に政治家として好まれやすいが、リベラルな有権者には好まれないことが判明した。一方で、非支配的な顔の候補者は、リベラルな価値観を持っている有権者には好まれるが、保守的な有権者には好まれないこともわかった。

 

 つまり、保守的な有権者は支配的な顔を、リベラルな有権者は非支配的な顔を好むということだ。

 

有権者の好みが分かれば、効率的な選挙活動につながる

 

 有権者の特定の価値観と投票されやすい顔の関係がわかれば、選挙活動はより効率的になるかもしれない。

 

 例えば、自分の支持層が好む顔向けに写真を撮影し、選挙活動に使用することで投票されやすくなるかもしれない。

 

 もし自分の支持層が保守的な有権者であると予想される場合には、男性的で支配的な特徴を持った顔写真を選ぶ方がいいだろうし、リベラルな有権者が支持層に多いと考えられる場合は逆に、非支配的で優しい顔の写真を使用した方がいいだろう。

 

 また、特定の地域に住む有権者が特定の価値観を持つことが多い場合には、各地域で利用する選挙活動の顔写真を微調整することも有効な方法になるだろう。

 

 

 

 これはアメリカで行われた研究であり、全てが日本の選挙に当てはまるとは限らない。しかし、有権者の政治的な価値観で好まれる政治家の顔が変わるという点は、実際の選挙活動を展開する上で重要な事実かもしれない。

 

 また、この研究成果は2016年に発表されたものであり、有権者の価値観と投票されやすい顔の特徴の関係はまだまだ未解明な部分が多い。

 

 今後、この関係がより詳細に明らかになれば、それぞれの有権者の属性に合わせて、最も良い選挙活動が展開できるようになるかもしれない。本ブログでは、新しい研究が出次第、紹介していく予定である。

 

主要参考資料:Winning Faces Vary by Ideology: How Nonverbal Source Cues Influence Election and Communication Success in Politics