選挙解体新書

地方選挙の解説、最新の選挙科学の研究、そして選挙の独自分析を紹介してます。

証明写真が実物より「良く」見えない理由

 

 選挙を想定した研究ではないが、政治家が写真を使用するときに参考となる研究もある。それは、写真と顔との「距離」だ。興味深いことに、カメラのレンズと、撮影される顔の距離が、撮影された人物の評価に影響することが報告されている。

 

近い距離から撮られた写真は印象が良くない

  カリフォルニア工科大学の研究者らが2012年に発表した研究によると、近距離(45cm)から撮影された人物の写真は、遠くから撮影(135cm)から撮影された写真よりも、より信頼できず、有能ではなく、魅力的ではない、と評価されることが分かった。この近距離撮影の写真が悪い評価を受ける効果は、写真に写っている顔のサイズを同じにしても一貫していた。

 

 政治家として注意しなければならないのは、「より信頼できず、有能ではなく、魅力的ではない」という評価を避けるべきであることだ。なぜなら、その評価は、票を得やすい顔の特徴と正反対にあることだ。

 

 このことから、政治家は近い距離から撮影された写真を選挙活動に使うべきではないと言えるだろう。

 

人間は近い距離にある顔を嫌がるようだ

 

 なぜ、近距離から撮影された写真は、悪い評価を受けるのだろうか。人間の顔には、眼、鼻、頬骨など凹凸がある。そのため、近距離で撮影された顔写真では、遠くから取られた写真よりも、相対的に、鼻が大きく耳が小さく見えてしまうなどの変化がある。顔パーツの大きさの微妙な変化を、人間は敏感に察知し、近距離で撮影された顔と遠くから撮影された顔の違いを認識できるようだ。

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Perspective Distortion from Interpersonal Distance Is an Implicit Visual Cue for Social Judgments of Faces

 

 左の顔が近くから撮られた写真で、右が遠くから撮られた写真だ。

 左の顔は、鼻が大きく耳が小さくなっているのが分かると思う。

 

 そしてどうだろう。右の顔の方が、「より信頼でき、有能で、魅力的」にみえないだろうか。

 

 

 研究者らは、人間には、他人が入ることを本能的に嫌がる空間(パーソナルスペース)があるため、大きくなった鼻や小さくなった耳など、近すぎる距離から取られた特徴をもった写真の顔に対して、無意識に悪い評価を与えてしまうのではないかと考えている。

  

自動証明写真機は履歴書に向いてない?

 

 近い距離から取られる写真の代表といえば、駅前などにある自動証明写真機があげられるだろう。この研究が正しいとすると、証明写真機のような近い距離から撮られた写真は、就職活動の履歴書の写真など、人に評価される写真には使わない方がいいかもしれない。もしくは、レンズの位置がなるべく遠いところにある証明写真機が良いだろう。

 

 また、選挙ポスターと違い、選挙公報に使われている顔写真には、いまだに証明写真機で撮ったと思われる写真が掲載されることがあるようだ。近くから撮影された写真は、選挙公報をはじめ、選挙活動には使用しないほうが無難だろう。

 

 

主要参考文献:Adolphse et al. Perspective Distortion from Interpersonal Distance Is an Implicit Visual Cue for Social Judgments of Faces